亜鉛溶射とは?

亜鉛溶射は、鉄鋼構造物の防錆・防食を目的とした溶射技術の一つです。1922年にパリのSt.Denis水門で初めて実施され、その後、世界中で幅広く採用されています。この技術は、主に以下の3種類の溶射材料で構成されています。

  • 亜鉛溶射 (JIS H 8300):大気中での使用に最適。
  • アルミニウム溶射 (JIS H 8301):大気および水溶液中で有効。
  • 亜鉛・アルミニウム合金溶射 (JIS H 8305):亜鉛とアルミニウムの長所を併せ持つ。

これらは主に橋梁や鉄塔、歩道橋、ウォーターフロントなど、鉄鋼構造物の防錆保護に使用されます。


亜鉛溶射の仕組み

亜鉛溶射は、犠牲陽極作用を利用して基材の鉄を保護します。以下のような反応が起こることで、鉄鋼が錆びるのを防ぎます。

  • 亜鉛の場合: Zn → Zn²⁺ + 2e⁻
  • アルミニウムの場合: Al → Al³⁺ + 3e⁻

溶射皮膜の一部が損傷しても、その犠牲陽極作用によって防食効果が持続する点が特徴です。また、溶射法の皮膜は他の防食方法よりも多孔質であるため、表面積が大きく、防食寿命が長いという利点があります。


塩水噴霧試験による防食性能の比較

亜鉛溶射の防食性能を検証するため、1994年に塩水噴霧試験(JIS Z 2371)が行われました。その結果、以下の通りの性能が確認されました。

試験結果概要

試験片1,000時間2,000時間3,000時間コメント
A1溶射(80~200μm)重量変化が少ない
A1溶射 + 樹脂封孔重量変化が最も少ない
Zn溶射(80~200μm)重量変化が多い
Zn溶射 + 樹脂封孔上記より少ない
Zn-Al溶射(80~200μm)重量変化が少ない
Zn-Al溶射 + 樹脂封孔上記より少ない
無機ジンクリッチペイント赤錆発生
溶融亜鉛鍍金赤錆発生

主な結果

  • 無封孔のアルミニウム溶射は3,000時間経過後も赤錆が発生しない。
  • 亜鉛溶射や亜鉛・アルミニウム合金溶射も優れた防食性能を示す。
  • シリコン樹脂やエポキシ樹脂による封孔処理を施すことで、防食寿命がさらに向上。

まとめ

亜鉛溶射は、犠牲陽極として機能しながら、長寿命で優れた防食効果を発揮します。塩水噴霧試験の結果からも明らかなように、特にアルミニウム溶射や封孔処理を施した皮膜は、最も信頼性の高い防食技術の一つです。鉄鋼構造物の耐久性を確保するためには、これらの技術の適切な選択と施工が重要です。